☆コーヒー好きの文豪というと最初に名が挙がるのは、フランスの哲学者・作家のヴォルテール(1694〜1778)と小説家のバルザック(1799〜1850)ではないでしょうか。ヴォルテールは18世紀を代表する啓蒙主義の思想家で、当時の封建制と専制政治を批判して度々投獄された経験を持ちます。
哲学書や歴史書のほか、『百科全書』の執筆にも参加。小説、詩、戯曲といった幅広い文学作品も手がけ、多くの著書を残しています。コーヒー愛飲者としても名高く、亡くなるまで毎日60杯ものコーヒーを飲んで創作に専念したそうです。周りの人が、そんなにたくさん飲んでは体に悪いのではと言葉をかけたときも、「もう何十年も同じことをいわれている。でも、私は80年間もコーヒーを飲み続けているけれど、何ともないよ」と答えたそうです。ヴォルテールは84歳で亡くなっているのでこのエピソードには多少の誇張はあるのでしょうが、彼が大のコーヒー党であったこと、晩年もかくしゃくとして旺盛に創作を続けたことは間違いないようです。
☆一方、バルザックは近代のリアリズム文学を代表する作家で、当時のフランス社会に生きるさまざまな階層の人々を描いた大作『人間喜劇』でよく知られています。彼の生涯を記したある伝記にはこんな描写があります。「バルザックは激しく仕事をこなした。夕方6時に床に就いて12時まで眠り、その後は起きてほとんどぶっ続けで仕事をこなした。その間、自分を刺激するためにコーヒーを飲むのが習慣だった。」彼は非常に濃いコーヒーを好み、1日に80杯も飲んだといわれています。バルザックのコーヒー論には、彼がどれほどコーヒーを愛し、その力を信じ、そして必要としていたかを理解させる言葉が綴られています。「諸君の胃袋の中にこの香り高い飲み物が入ると、(中略) 記憶は風のように駆け戻り、頭脳の論理的な働きは騎兵隊のように展開する。ウィットはたちまちでき上がり、原稿用紙は名文に充ちることであろう。」
|